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11. 花の下にて春死なむ


18-R0019364.jpg 

伊勢での初めての春。伊勢神宮外宮さんへの道を歩いていると、痩せこけた槙の生垣から自由奔放に枝を突き出して桜が咲きこぼれていた。ここはどこなのか。入り口が見あたらないので槙垣のすき間からもぐりこむと、荒れ果てた庭に桜たちが咲き乱れていた。まるで一幅の絵のよう。ほとんどはヤマザクラ系のようで白や淡い色の一重花は楚々としてひかえめだというのに、今にも崩れ落ちそうな瓦屋根の土塀に寄りかかって生きながらえている老木だけが妖艶な花を懸命に咲かせていた。「オヤネザクラ」という名札が下がっていた。

12-R0018629.jpg江戸時代に神宮外宮の神官が子弟の修学所としてつくった「豊宮崎文庫」の跡地であると園内に説明されていた。
貝原益軒など当時の名だたる学者が神典や儒書の講義に加わり、公家や学者から寄贈された蔵書が二万冊以上も揃った、日本でも稀な学校・図書館であった。明治時代に建物は焼失したが幸いにも蔵書は難を逃れ、伊勢神宮に奉納されて今も神宮文庫に健在である。
書籍に加えて破れた門と崩れそうな練塀といくつかの石碑、そしてありがたや桜が残った。往時の見取り図を見ると敷地の半分以上が桜園に当てられており、もともと桜の園として造園されていたことがわかる。荒れ寂れているとはいえ美しく、趣があるのはけだし当然か。

12-R0011388.jpg 「オヤネザクラ」はヤマザクラの新種で、この文庫創設をすすめた外宮神官の自邸屋根についたとも外宮ご本殿の屋根に生えたともいわれ、この名前がついた。最盛期には70本以上もあったといわれるが、時代と共に消滅したと思われていた。
30年ほど前に地元の植物関係者によってオヤネザクラ4株がなんとか生き永らえているのが確認され、後に伊勢市の天然記念物に認定された。近年まで原木二本が残っていたが一本が枯死んだ。代わりに若木が二本育っている。

文庫跡は国の指定史跡で、オヤネザクラは伊勢市の天然記念物だというのに、この荒れようはなんということか。桜が咲かないときの様子を思うと胸が痛む。日本にも伊勢にも史跡が多すぎるほどあるから仕方がないのだろうか。 

その後の数日は天気がくずれ桜が気になるものの用事続き。四日目の朝に桜園へ駆けつけると、ああ、あわれ花びら流れ、ではありませんか。はらりひらりと花びらが舞い降りてくる中を、おじいさんがひとり、ひっそりとスケッチをしていた。

12-R0012270.jpg満開の桜にぐるりと囲まれてどのくらい経ったときか。突然、風が吹きこんで、桜の花びらが先を競いでもするかのようにいっせいに降り注ぎはじめた。まるで集中豪雨のような花びらのシャワーに閉じ込められて、なす術もなく立ちすくむ。おじいさんもスケッチ帳をだらりと下げたまま花びらの中に立ちつくしていた。

花びらシャワーが終わると、おじいさんはもうこの世に思い残すことはないとでもいうかのように、ワタシにそっと微笑むと静かに、しかしきっぱりとした足取りで園を去って行った。まだこの世に未練があるワタシは、もう一度あのシャワーの恩恵に与りたくて留まっていたが、もう桜花は舞い降りてくれなかった。

今年は桜を堪能できたからもういい、そう決めて帰ったはずが一夜明けるとまた桜のもとへ。それほどにあの花びらシャワーは強烈だった。しかし、すでに半分以上の花びらが散ってしまい、残り花の間には青空が広がっていた。 空を覆いつくした花びらは下に舞い降りて、地上を染めていた。残り花がひらり、はらりとこぼれ落ちる。

これもまたよしと倒木に腰を下ろして、ひらりはらりと花びらを受けながら西行さんの歌を開く。本にもひらりはらりと花びらが落ちてくる。生涯、桜を愛し、「ねがわくは花の下にて春死なむ そのきさらぎの望月のころ」と詠んで、桜の季節に亡くなった西行さんもさぞやおよろこびであろう。西行は出家した当初からしばしば伊勢を訪れ、晩年には伊勢神宮内宮の近くに庵をひらいて七年以上も住み、神宮の神官たちと歌会を楽しみ、歌本を神宮に奉納している。また花びらがひらり、はらり。日が暮れるまで座って本を読んだり、桜木を見上げながら歩いたり、ひとりだけの贅沢な花見を楽しんだ。   
   
あれから二年。文庫の桜は今年も美しく咲いた。園内も少し整えられ、枯れて朽ちるにまかせていたもう一本のオヤネザクラ原木も撤去され、若木が順調に育っている。もうそろそろ、ひらりはらりが始まる頃だ。今年こそ桜のシャワーをいただけるのではないかと胸をさわがせつつ、桜園へと向かう。 

              春風の花を散らすと見る夢は
                            さめても胸のさわぐなりけり   西行  
  
 

                               お歌を詠んでおられるのだろうか 

18-R0011807(.jpg

     


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mimosusor

Author:mimosusor
伊勢に生まれながら小さいときから都会大好き。中学校を終えると、ひとりで大阪の学校へ進み、その後は東京で就職。しかし、日本最大の都会にも物足らず、世界の大都会ニューヨークへ。あぁ、ここぞ探していたわが棲み処、もう動くまいと感涙にむせびながら腰を下ろしてから十余年。

仕事で一時帰国していたとき帰郷したのが事の始まりというか終わりというか、「ニューヨークへ帰るの、やめた。伊勢に住む!」となりにけり。

そのわけ?なんたって伊勢神宮ですよ。何十年ぶりかで訪れた伊勢神宮をひとめ見るや打ちのめされてしまったのです。なにが、なにに、なにしたのか。その顛末はブログをどうぞ。

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