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9. 伊勢の春

11のCIMG3579 伊勢に住みはじめてまもない頃。春もそこまでという陽気に誘われて散歩をしているうちにどこかへ迷い込んでしまった。尋ねようにも人影が見当たらない。あっちへ行ったりこっちへ行ったりうろうろうろ。

さまよっているのは古市(ふるいち)の路地裏。お伊勢参りが盛んだった頃には精進落としで賑わったという花街だが、今はその面影もない。丘陵にへばりつくように建てられた家々が長い歴史と共に押し合い圧し合いしながら脈絡もなく広がり、路地裏はあっちもこっちも行き止まりばかり。苦手なジクソーパズルのようだ。

出口が見つけられず途方に暮れていると、どこかでひとの声がする。
声を頼りにくねくね道を進むと斜面の狭い坂で男の子が二人、ボール遊びに興じていた。子供たちに道をきくのもなんなので、そのまま進んでみたがまた行き止まりだ。しょうがない、あの子らに聞いてみるか。

くねくね道を戻ると子供たちと話しているじいちゃんの後姿が見えた。茶色のカーディガンに黒ズボン、下駄というどこにでもいる田舎のじいちゃん風だが、その後姿にギョッとさせられた。じいちゃんの肩に立派な紅白の綱がかかっているのだ。その太さと長さときたら半端じゃない。綱の端が地面に着くほどもあるのだ。思わず駆け寄ってまたまたびっくり!!じいちゃんの胸元には紅白の綱に結ばれた大きなほら貝がぶら下がっているではないか。思わず、「それはほら貝ですか?」と大きな声を上げてしまった。
 
10-CIMG0691.jpg 「そうや、お木曳きのや」
「なんですか、そのお木曳きとは?」
「五十鈴川で神宮さんのご用材を曳く…」
「川を渡って曳くんですか?」
「いんや、川の中に入ってや」

なんのことかさっぱりわからないが、じいちゃんの方も面食らっていた。そりゃあ、そうだろう。突然見知らぬオンナが現れて挨拶もせずに、伊勢ではジョーシキのことをうるさく聞いてくるのだ。最初は顔もこわばっていたがそのうち気を取り直したかボソボソと話しはじめてくれた。「神宮さんが20年に一度、社殿を建て替えるのでそのご用材をみんなで曳いてご奉仕するんですわ。内宮さんへは五十鈴川に入って川中を曳くので川曳き(かわびき)、外宮さんへは市中を曳くので陸曳き(おかびき)と呼んでます。ここらへんはもともと内宮さんの神領ですから五十鈴川を曳くんです」

川曳きでは檜の巨木を流れをさかのぼって曳くので動きをとるのが難しく、それよりも五十鈴川の川底が浅かったり深いところでは首まで浸かるほどもあったりと起伏が激しい上に底の石がぬるんでいるので危険がいっぱい。「わしら年寄りにはもうできません」とじいちゃん、寂しそう。 5、6月に陸曳き、7月に川曳きが行われるそうで、「一度見に来りゃあ、わかるわ」といわれて、なんだかわからないままに、「ハイッ、行きます!」と元気な返事をしてしまった。こりゃあ春からおもしろくなりそうだ。

10-CIMG0638.jpgわくわくしながら歩きはじめると、「ぶぅおぅ~!」とほら貝の音が響き渡った。大地から湧き出るような音に思わず足を止める。 綱に巻かれた紅白布が真新しかったところをみると、ひょっとしてこれがじいちゃんの今年のほら貝、吹き初めか。写真を撮らせてもらおうと急いで戻りかけるとまた、「ぶぅお~おぉ~!」
この豪快な音を前に小さなデジカメなんぞ向けられようかと思い直す。じいちゃんに道を尋ねるのを忘れてきたが、さっきまであんなに恨んでいた迷路を、ほら貝とは戦国時代の合戦の合図か、いや、山伏や修行僧が吹いていたのではなかったか。ならば山の神さんの儀式か。時代劇のシーンを思い浮かべながらほら貝幻想を楽しんでいると、ひょいと表の通りへ出た。かっていくつもの遊郭が軒を並べたという旧街道だが、今は野菜や雑貨を売る小さな雑貨店と魚屋、肉屋などがポツリポツリとあるくらい。

八百屋の店先に蕗のとうが1パック95円で並んでいた。それに近所のお百姓さんが育てたという大根と椎茸を買った。 その先の魚屋さんではぴかぴかと輝く新鮮なアジとムツを買った。すると、おっちゃんが「そこのダンボールに入ってるブロッコリー、持ってってください」と言う。魚屋さんがお土産にブロッコリーを? 「いやいや、うちのお客さんが作ったもんで、小さいけどみんなにあげてください言うて今朝もってきてくれたんや。ダンボールに山積みあったけどもうそれだけですわ。好きなだけ持ってって下さい」。
アジは明日焼いて食べることにして今晩はムツを煮よう。3個もらったブロッコリーは明日の朝にしよう。取りたての新鮮椎茸は今晩焼くとして大根はどうするか。 それよりも大好きな蕗のとうをどうやって食べるか。そして何を飲むかだ。 道に迷ったおかげで、ひと足早く春がやってきたようだった。

その年、20年に一度というお木曳きを観た。おもしろかった。たちまち夢中になってひとりでカメラを友に出かけたり、東京の友人、知人に姉や甥などを誘っては見物を楽しんだ。毎週、伊勢のご町内が各自趣向を凝らして大きな用材を曳いたが、古市が曳く日は都合がつかずじいちゃんの晴れ姿を見ることができなかった。春先に出会った路地がどこだったのかその後、辿ってみたがあの迷路を見つけることはできなかった。お木曳きはその翌年も行われ、古市奉曳団はその最後を立派に務めた。大きなほら貝を胸にぶら下げた半纏姿のじいちゃんの晴れ姿もあったが、あのほら貝が鳴ることはなかった。 その顛末はまたの機会に。


18-CIMG4191.jpg
   昔懐かしい雑貨屋さんの軒先で、中学生がをじゃんけんぽん!当たりの出るチョコレートくじを引く順を競っていた。


 

 

 

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mimosusor

Author:mimosusor
伊勢に生まれながら小さいときから都会大好き。中学校を終えると、ひとりで大阪の学校へ進み、その後は東京で就職。しかし、日本最大の都会にも物足らず、世界の大都会ニューヨークへ。あぁ、ここぞ探していたわが棲み処、もう動くまいと感涙にむせびながら腰を下ろしてから十余年。

仕事で一時帰国していたとき帰郷したのが事の始まりというか終わりというか、「ニューヨークへ帰るの、やめた。伊勢に住む!」となりにけり。

そのわけ?なんたって伊勢神宮ですよ。何十年ぶりかで訪れた伊勢神宮をひとめ見るや打ちのめされてしまったのです。なにが、なにに、なにしたのか。その顛末はブログをどうぞ。

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